ウフコックは大きく目を見開いた。その小さな体が希望ではち切れそうだった。
「本当に? この俺を必要としてくれる相手が現れるなんてことがあるのか?」
「そうだ」
 意図せずに浮かぶ微笑――自分の匂いを、相手と同じように感じ取れる気がした。
「おまえを必要とする者が、きっと現れる」

           
      「マルドゥック・ヴェロシティ」  冲方丁 ハヤカワ文庫

 閉ざされた楽園――軍の研究所の特殊被験者であるデムズデイル=ボイルド。彼には戦地において友軍への誤爆という罪を犯した過去があり、肉体改造後も、眠りを必要としなくなったはずの彼の脳裏に弾ける墜落、爆発のビジョンに微かな不安を抱いていた。だが、表向きは寡黙で冷静、不安などまるで感じていないように見えるボイルド。そんな彼を支えていたのは、知能を持つ万能兵器、金色のネズミ、ウフコックという相棒――ボイルドの良心的存在。特殊被験者たちはそれぞれにふさわしい肉体改造を受け、ふたたび戦場に出ていくはずだった。だが、やがて戦争は終結し、非日常的な力を持つ存在は不要とされる日がやってくる。自らの有用性はどこで証明すべきなのか? 廃棄処分をかろうじて免れたボイルドたちは、マルドゥック市において、自分たちの有用性を証明づけるべく、「マルデゥック・スクランブル09」という証人保護任務につく。だが、彼らが守らねばならない人々を狙う組織にもまた、彼らと同じく肉体改造を受けた元兵士たちがいた。熾烈な戦い。その中でも見出された、やすらぎと信頼関係。守りたいものを守るためには、良心を眠らせなければならないのか。けれど、守りたいと願ったものこそが……その良心そのものであるのに。
 「マルドゥック・スクランブル」続編。とはいっても、時代的には「スクランブル」よりも前の話になる。ウフコックと前パートナー、ボイルドの物語。「スクランブル」のときにも感じていたことなのだが、ボイルドとウフコックの関係は、片想いなのである。ボイルドはウフコックを必要とし、誰より、何より、ウフコックがいてくれてこその自分……というものを自覚している。つまり、ウフコックは期せずして自らがこころの底から願う「有用性」を証明しているのだ。だが、ウフコック自身がそれに気づくことはなく、ボイルドを自分の一部くらいにしか思っていないため、ボイルドの想いはいつも淋しい場所にある。
 特殊な文体のため、とっつきづらいと感じる人はいると思うのだが……オススメです。そしてもちろん、「スクランブル」も読んでもらいたい。



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