「われわれネコのあいだではこう言います。子ネコはたたいて抱きしめて育てろ、ってね。あの子にはその両方が足りません」
          
「魔女の愛した子」マイケル・グルーバー(三辺律子訳) 理論社

 昔、はるか遠い大きな森にひとりの女が暮らしていた。そしてある日、女は森の中で籐のかごに入れられたひとりの男の赤ん坊を見つけ、育てることにする。ひとり暮らしの女が赤ん坊を育てる――それだけでも風変りなことであったが、問題なのは、女は魔女で、赤ん坊が世界で一番といっていいほど醜い赤ん坊であることだった。同居するネコのファランスに無理だといわれても赤ん坊を育てることを決意した女だったが、クマを乳母とし、悪魔を家庭教師とする男の子は、ほとんど放任に近い女の育て方のせいもあって徐々に強情でわがままな性格の少年に育っていく。そんな彼をさらに歪めたのは、生まれて初めて出会った同じ人間の子どもたちに醜さをはやしたてられ、苛められたことだった。そしてある日、彼の決定的なミスのせいで、女たちは大きな森を追われて逃げ出す羽目になる――
 さまざまな昔語りがさりげなく挿入され、全体にどこか懐かしい雰囲気さえ持つ物語。赤ずきんちゃん、ヘンゼルとグレーテル、ラプンツェル、眠れる森の美女、青ひげ、ランペルスティルツキン……めでたしめでたしで終わった物語は残酷に、残酷に終わった物語はめでたしめでたしに。魔女の側から見た昔語りは、人間の側から見たものとは微妙に趣を変えている。そのあたりのおもしろさにも注目。
 醜さゆえに歪んでしまった少年や、母親として、あるいは仕事を持つ女性として悩む魔女、皮肉屋のネコのファランス、献身的な乳母であるクマのイスルなどなど、登場人物も魅力的。個人的には中年になったヘンゼルも捨てがたかったり。
 理論社のYAファンタジーシリーズの一冊。理論社のセレクトってうまいなあ。




オススメ本リストへ