「ふーん、そうかい」カモは言いました。「じゃ、いまから、わたしたちもきまりをつくらせてもらおうか――カモが人間を撃ってもいいというきまりをね」
            
 「魔法のゆび」ロアルド・ダール(宮下嶺夫訳) 評論社

 「わたし」は八歳の女の子。おとなりのグレッグさんは、グレッグさんと奥さん、それに八歳のフィリップと十一歳のウイリアムという男のふたりの四人家族。グレッグさんと男の子ふたりは狩りが大好きで、わたしがどんなに頼んでも狩りをやめてくれません……だから、<あれ>を使ってしまったんです。<魔法のゆび>を!
 <魔法のゆび>はわたしの秘密。生まれたときからもっている力で、カッとなると目の前がまっかになり……からだじゅうが熱くなって……右手の人さし指の先が、ものすごくピリピリしてきて……そして、とつぜん、わたしのなかから光線のようなものがとびだして、わたしを怒らせた人をねこにしちゃったり、いろんなへんなものに変えちゃったりするのです。
 そしてある日、わたしの怒りは狩りをしているグレッグさん一家にむけられ……グレッグさんたちは人間の姿のまま、背がちぢんで、手がつばさに変わってしまったのです! しかも、グレッグさんたちが空を飛んでいるあいだに、人間の大きさくらいもあるカモたちが、グレッグさんの家に入りこんでしまいました。そして、それから……
 人間がカモに、カモが人間になるという奇想天外な物語。狩りを好んでいた一家が、自分がカモの銃にねらわれるようになって、家族の大切さや、命の大切さは人間もカモも同じだということに気づく。
 と書くと、なんとも道徳的な話のようだが、そもそものきっかけが<魔法のゆび>ですし……主人公のような主人公でないような女の子、「わたし」によって姿を変えられちゃった他の人たちはどうなるの? とかいろいろ考えると、これもまあダール流のなんともいえないブラックなテイストがただよっている。オススメ。




オススメ本リストへ