「生きる? それとも死ぬ?」
「……生きたい」
「いいえ、希望を訊いているんじゃないの。選ぶの。生きる? 死ぬ?」
「生きるわ」
    
         「フリーランチの時代」(「フリーランチの時代」所収) 小川一水 早川書房

 日本政府が行った初めての火星越年隊。資材の重量が厳しく制限されているため、食材が少なく、隊員たちは塩鮭二センチ、納豆ひと匙を奪い合うような生活をしていた。そんなある日、火星の表面でパラボラアンテナを設置中、つい油断して宇宙服に裂け目を作ってしまった三奈は、そこで異星人からハムレットばりの選択肢をつきつけられ――
 異星人との「なりゆき」ファーストコンタクトを描いたどたばたコメディの表題作をはじめ、近未来に生きるさまざまな人々の生活を描いた短編集。小川一水といえば「復活の地」や「天涯の砦」など、極限状況でのサバイバルを描く作家というイメージがあるが、ここに収められている作品が書いているのは、ある意味ではごくふつうの人々の生活だ。ただ、その「ふつうの人」たちが、火星で暮らしていたり、身体を失って人工ロボットの中で暮らしていたりするわけだが。
 「ふつうの人」が、ふつうに生活していたら、いつのまにか不老不死になっていた「千歳の坂も」。健康であるか、健康であろうとしなければならないと定められた日本で、死を望む人たちは、老いていくことを望む人たちはどのように生きていくのか。不老不死の日々とばかりを抱えた日本の、そして世界の行きつく先はどうなるのか。長く生きることは、幸か、不幸か。
 コメディからシリアスまで。小川一水の魅力を存分に楽しめる一冊。



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