「……またここに来るからな」図書館警官は、その奇怪な舌足らずにきこえる口調でいった。「なくしたものは、ちゃんと見つけだしたほうが身のためだぞ、ミスター・ピープルズ」
               
「図書館警察」 スティーブン・キング(白石朗訳) 文春文庫

 ジャンクションシティに住む不動産屋のサム・ピープルズは、ひょんなことから地元のロータリー・クラブの講演会を引き受けることになってしまった。必死で書いた原稿を読ませた臨時タイピストのナオミに勧められて、講演にちょっとしたスパイスを加えるためのジョークや詩を求めて図書館に行ったサムは、そこでアーデリア・ローツという奇妙な中年の司書と出会う。ちょっぴり不気味で、わざとらしい親切心の陰で陰険な笑みを浮かべているような彼女から借りた2冊の本。講演会は無事に終了するが、その後、返却期限を過ぎても本を返さなかった(返せなかった)サムの前に、図書館警察が現れる。本を返さないくらいのことで、なぜ命まで脅かされなければならないのか。しかも、改めて出かけていった図書館の姿は、サムが以前、ローツと出会った場所とはまったく趣を異にしていた。異なる次元で出会ってしまった図書館から逃れる術はあるのか。
 中編集。同時に収められた「サン・ドッグ」もそうなのだが、理不尽な恐怖と立ち向かう中で、友情や親子関係の修復など、身近な人々との絆が深まっていく姿が描かれている。「サン・ドッグ」の中にも、こんなシーンがある。

 デレヴァンは小さくほほえんだ。自分らしくもない翳った表情がゆるんで、やがてその翳が消えていくのが感じられた。すくなくとも、これだけはいえる。息子はまだ、父親から心の慰めを得られなくなったり、あるいは父親を一段上の権力と見なし、直訴すればそれに応じた行動をとってくれる存在だと考えられなくなるほどには成長していないのだ。そして自分もまた、息子が心の慰めを得たことを目にして心の安らぎを感じなくなるほど、年老いてはいない。

 過去を克服すること、自分自身の姿を相手にさらけだすことで、絆が深まり、それが異なる存在へと立ち向かう力の源となる。
 それにしても、ほんとにこういう図書館があったら、怖い。



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