いまジョニーは、ジャックの目を通して自分を見ていた。そして悟った。はっきり悟った。自分はどうかしていると。しかし、悟ったところで何も変わらない。
「行かなきゃいけないんだ」
               
  「ラスト・チャイルド」ジョン・ハート(東野さやか訳) 早川書房

 一年前、ふたごの妹アリッサが誘拐されてから、ジョニーの人生は一変した。事件について母に責められた父親が失踪、優しかった母は薬に溺れ、ジョニーの面倒を見てくれる人は誰一人いない。ひとりで買い物をして、食事の用意をして、ふつうに過ごしているようなふりをしているけれど、実際には、ジョニーの家庭は完全に崩壊していたのだ。そんな中、アリッサはどこかで必ず生きているという信念で、ジョニーはひとりで、ときに親友のジャックとともに、近隣の性犯罪者の家を見張り、家々をたずねてまわる。そんな彼を不安そうに見守るのは、アリッサの誘拐事件にのめりこみすぎたために、自分の家庭を崩壊させてしまった刑事ハント。そしてある日、大怪我を負って誰かから逃げてきた男が、ジョニーに告げる……「あの子を見つけた」と。アリッサか? それとも別の少女のことか? 周囲の声も聞かず、「あの子」がアリッサだと信じるジョニーは、大人の裏をかいてアリッサ探しを続けようとするが……――
 十三歳の少年にできることは限られている。けれど、自転車に乗って、地図がぼろぼろになるまで、アリッサが連れ去られたかもしれない場所を訪ね歩くジョニーのほうが、大人よりも真相に近づくこともある。物語は真実を暴くという流れと同時に、執念のあまりふつうではなくなってしまったジョニーを気遣う親友のジャック、母親にまで見捨てられたジョニーを見守るハント刑事、そしてとあることをきっかけに立ち直ろうとするジョニーの母キャサリンといった人々を描くことで、人と人とのかかわりや、失われたものへの哀惜とった感情が浮かび上がってくるという流れもある。
 真実は苦く切ない。それでも最後の一行に明かりが見え、読後は不思議と暖かい。
 週刊文春ミステリーベス10第1位、ミステリが読みたい! 2011年版「ミステリが読みたい!」大賞第1位、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞最優秀スリラー賞受賞。




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