結局は、この世界でぼくたちがなにをしようと、発見したものを最大限に活用する性質を人間の頭脳がもっているかぎり、最終的には、少なくとも地球にいたころあったものを下回ることはないだろう。ちがったものにはなるだろう……
                「ダーコーヴァ不時着」 マリオン・ジマー・ブラッドリー (細美遙子・宇井千史訳) 創元推理文庫  ダーコーヴァ年代記5


 数百人の人員を乗せた宇宙船が遭難し不時着したのは、ほぼ地球タイプ、居住可能だと思われる惑星。しかし、目的地ではない。赤い太陽、四つの月、極端な気温変化、山脈。希望を捨てずに宇宙船を修理して飛び立とうという船長の言葉にすがる一方で、地質学者のレイフェル・マッカランをはじめ、異星生物学者や微生物学者、宇宙植物学者たちで構成されるグループがこの星の調査に乗り出した。この惑星に居住しつづけることは可能なのか。それとも、彼らはなにもかもが失われてゆくのを、滅びてゆくのを見守ることしか出来ないのか。この惑星にはいくつかの知的生物がいるらしいことも、そして狂気を引き起こす奇妙な風が吹くこともわかる。だが、船長が狂気のように信じている復活はありえないのだ。失われた科学者や技術者の知識を数年で身につけることなど不可能なのだから。人々は苦い認識でもって、そのことを受け入れる。
 それにしても、ここはなんという惑星だろうか。その空気のせいなのか、他の理由があるのか、彼らのうち何人かは奇妙な超能力のようなものを発達させはじめていた。そして、美しい非・人類の子どもを身ごもったと確信する女性。
 苦しい生活の中で、それでも人間らしさを失わずに生きていこうとする人々の前向きさ、そして子どもたちに托す希望。ダーコーヴァ第一日目のできごとである。これから二千年後、この失われた惑星が再発見される日まで、彼らがいかに「人間らしく」誇り高く生きてきたかはご存知のとおり。
 それにしても。テクノロジーを持つ地球帝国が登場はしてきたが、基本的にダーコーヴァ年代記はファンタジーの要素が強かった。が、この一冊で突然、異世界発見SFに。SFとファンタジーの違いは何か、などという論議もあるにはあるだろうけれど、とにかく、これによってファンタジーが苦手SFファンの心もつかんだことは間違いない。ブラッドリーにやられたな、と思わずにやりとしてしまう一冊である。



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