「ママの心臓は大きな赤い筋肉の塊よ。わたしの心臓は念力を使うと鼓動が速まるけど、ママの心臓は少し遅くなる。少し遅くなる」
               
     「キャリー」スティーヴン・キング(永井淳訳) 新潮文庫

 狂信的な母親に育てられたキャリーは16歳。クラスの女の子たちに溶け込むことはおろか、まともに話をすることさえできず、いいように苛められ、いたぶられる日々。先生たちでさえキャリーに手を差し伸べてはくれないのだ。だが、キャリーには幼いある日、家に石を降らさせたのではないか……という過去があった。テレキネシス、念動能力。だが、それまでのキャリーとはまるで違う大きな力が生まれようとしていることを、キャリー自身もまだ気づいてはいなかった。成長による身体の変化と、周囲の悪意によって追い詰められたキャリーが発現させた能力の大きさはどんなものだったのか――物語はキャリーにとっての現在と、その事件の後、事件をまとめた作家や研究者等々によるメモなどで構成され、キャリー・ホワイト事件の真実を明らかにしてゆくことになっていく。
 こんな物語がくずかごに捨てられていたとは。
 知る人ぞ知る、キングの処女長編「キャリー」。キング自身が自信を喪失し、くずかごに捨てられていたのを妻が拾い上げ、夫を励まして完成させた、というのがこの作品。初期作品のキングには、いったん物語が落ち着いたと見せかけておいて、最後の最後にぞっとするような数行を挟み込むという手腕があるように思うのだが、この作品も最後がすごい。さりげなく書かれているだけに、かえって恐ろしいのである。……本当に怖いものって、たしかにさりげないものだと思うから。
 キングにしてはやや凝った手法が用いられているあたり、第一作目で力が入っているということだろうか。映画もすごかったです。オススメ。



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