これは私が選んだ道。
          
  「クシエルの矢」 ジャクリーン・ケアリー(和爾桃子訳) 早川書房

 天使の血を引く人々が住むといわれるテールダンジュでは、“夜の法廷”ともいわれる<夜の花々を司る法廷>に仕えることは、天使様への奉仕にもつながる。そのため、神娼である彼女・彼らは、ただそれだけで蔑まれることなく、王家の傍に侍り、夫の身分によって貴族となった者も少なくない。しかし、花司の許可を得ぬままに商人の父と駆け落ちした神娼の母を持つフェードルは、左目に傷を持つが故にどこの花館でも引き取ってもらうことができず、幼い日々を将来のわからぬままに月下美人館で過ごす。しかし、左目のその赤い斑点こそ、<クシエルの矢>のしるし。三代遡っても本物はいないといわれていた<アングィセット>の証であった。その稀な性質を見込まれて、謎めいた貴族デローネイのもとに引き取られたフェードルは、各国の言葉と歴史を学び、情報を得るために目と耳を鋭くする訓練を積む。そして同時にフェードルは、同じくデローネイのもとで仕込まれている少年アルクィンとともに、デローネイの過去と真意を探ろうとするが……
 ローカス賞受賞の歴史ファンタジー。
 華やかな夜の法廷や貴族たちの集うパーティなどが中心の1巻から、吹雪の荒野をめぐる2巻、大海原に乗り出す3巻と、フェードルの道行はまさしく波乱万丈。王国の興亡をかけた争いなども見どころで、スケールの大きな物語である。
 が、しかし。というか、で、だからこそ。
 フェードルがアングィセットである必要ってあるのかなあ……あるんだろうなあ……。神娼といってもそれぞれに特徴があるわけだが、フェードルのもつ特殊な性癖、アングィセットであるということは、苦痛の中に快楽を見出すという……まあもちろんそれが情報を得るための最適の手段になることもあるし、敵役である某登場人物との関係を考えると、重要なのかもしれないが。そういう部分がなければ、もっと一般受けするだろうし、もっとふつうにススメられるのに。と思ってしまった次第である。
 とはいえ(各々の性癖はともかく)フェードルの幼なじみヒアシンスをはじめ、魅力的な登場人物がたくさん。3巻で第1部完、ということだが、第2部も楽しみ。



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