「あんたに、何が分かるっていうのよ。善人面して、そうやって人を説得できるつもりでいるわけ? 大体、あんたが悪いんじゃないの。あんたが私たちにつきまとったりしなければ、こんなことにはならなかったのよ!」
               
 「鎖」乃南アサ 新潮文庫

 武蔵村山市で占い師夫婦と信者の四人が惨殺された。一見して尋常な死体ではない。機動捜査隊の音道貴子は、初動捜査活動に従事した関係で、特別捜査本部に出向することになる。だが、そこで組むことになった星野警部補は、つかみどころのない男だった。手柄を立てるために仲間に情報を隠し、調子のいいことばかりを口にする男。最初こそ女だからという扱いをされないことに安心していた貴子だったが、それこそが大きな誤解だった。思いもかけないことがきっかけで星野の機嫌を損ねてしまった後には、耐えられぬほど険悪な雰囲気が待っていたのだ。唯一の救いは、星野がそういう男であることを周囲がそれなりに理解してくれていることだが、それでも、とうとうある日、ふたりは別々の行動をとることになってしまう。そして、たったひとりで訪れた家で貴子は意識を失い、何者かに監禁されてしまう――!
 「凍える牙」続編(あ、「凍える牙」のオススメ文を書いていない)、時間的には「花散る頃の殺人」よりも後、になるのだろうか。警察という男の多い組織の中で生きていかねばならない苦しさと、それでも頑張ろう、とする強い意志。それが、思いもかけないことで鎖につながれた監禁生活を強いられ、気力・体力ともに限界に追いつめられていってしまう。胸の中に湧き上がるやりきれなさ。
 だが一方で、星野のようなクズを殴り飛ばす勢いで、「凍える牙」ではあれだけ貴子とぶつかりあっていた滝沢刑事が貴子の無事を信じ、そして貴子そのものを信じて、救出班のひとりとなっていることが、読者としては涙が出るほどに力強くうれしいところ。
 男性が読んで、どう思うのかは知らない――けれど、ある程度の年齢になって、女に生まれてきて損なことも辛いことも沢山ある、でも女性でよかった……と。そう思える女性にはぜひ読んでもらいたい作品。眩しいほどにすがすがしい強さを感じることが出来ると思う。



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