第36条 警備員が怪異現象と考えられる状況に遭遇した場合は、それをなかったものとして警備を続行すること。なお、状況から無視することが不可能である場合、自己の判断で処理しようとせず、すみやかに左記に連絡し、警備を引き継ぐものとする。
               「三人のゴーストハンター:国枝特殊警備ファイル」 我孫子武丸・田中啓文・牧野修   集英社


 機密を扱う研究所、真夜中のオフィス、謎の焼死が続くホテル。一般の警備員たちの手に負えない怪奇現象が発生したとき、その警備を引き継ぐのが、国枝特殊警備保障(有)。レンタルビデオショップの二階に居を構える、社長ほか警備員3名と助手1名、計5名だけの小さな警備会社である。しかし、この5人にはある共通点があった。4年前までは自称霊能力者だったり、オカルトアイドルだったりした彼らだが、ある幽霊屋敷の取材中、事件に巻き込まれ、それぞれに傷を負ったり親族を失ったりという目にあっているのだ。しかも、彼らにはその記憶がない。彼らは日々、特殊な警備を引き継ぎながら、その4年前の事件を解き明かそうとしているのだが……
 駄洒落王、田中啓文描くところの洞蛙坊の胸が悪くなるほど下品で汚いお祓いや、壊れかたNo.1の牧野修描くところの比嘉薫の妄想サイコぶり、論理的本格ミステリの我孫子武丸描くところの山県匡彦の頑ななまでの科学信奉……これらが、三度ローテーションすることで、互いに物語を深めていくさまが、よい。おそらくこれが誰かひとりだけを主人公にした話だったら、ここまでおもしろい話にはならなかっただろう。そしてFinal Fileも三人三様。それまでに書かれていたすべての物語を伏線として、三人の作家がそれぞれの「終わり方」を書いているのだ。しかもこれ、読者が好きな終わり方を選べるようになっている(ちなみにわたしは牧野修パターンだった……やはり波長は牧野か←苦笑)。
 よくもまあ、こんな鬼才(奇才)を三人揃えることができたものである。「ワイルドカード」シリーズを思わせる贅沢な一冊。SFファン、ミステリファン、ホラーファンは見逃せません。オススメ。



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