しかし、筆者としては、そのような晴明像をここでぶっ壊してやりたいという、語り手としての欲望もございます。でも、女の子受けはしっかりとりたい。
             
「平成講釈 安倍晴明伝」 夢枕獏 中公文庫

 ドラマにもなり映画化もされ、小説も漫画も世に知られ、夢枕版陰陽師以外の晴明も数多かれど……赤毛の馬鹿、という晴明はあまりないのではないか、と思われる。
 速記本と呼ばれる、講談をそのまま本のかたちにした三冊のネタ本を元に、平成版講釈をしようじゃないか、という試みなので、毎回ちょっとした枕がふられ、途中で筆者の語りが入る。文章を読むというよりは耳で聞く感じで、まずは晴明の先祖の話などをゆるゆると読みつつ、まあ、これには博雅くんは出てこなくても、やっぱり白皙の美貌で氷のようにクールで切れる晴明が出てくるんだよなあと思っていたら……出てきたのは蝮を手で掴んで生のままばりばりと食べる悪がき。いやはや……さすがは「上弦の月を喰べる獅子」を自らパロディ化してしまった夢枕である。自分でもあとがきに、
「しかし、同じ晴明で、こうも毛色の違う話を書いてしまうというのは、まったくもって、節操のない人間であります」
 と書いているけど……まったくもって、節操がない(笑)。(注*いや、でもちゃんと「女の子受け」するようにもなっているのですけどね)
 安倍仲麿や吉備真備がいかにして唐土に渡り、珍書を手に入れたか、などというくだりも興味深く、とにかく読ませる、いや、聞かせる。
 もし万が一、「陰陽師ねえ、未読だけど有名になりすぎちゃってねえ、ちょっと手が出ないよねえ」なんて思っている方がいたら、ぜひ、こちらから。



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