「沈みはじめたら助けにくるって約束して」
        
「航路」 コニー・ウィリス(大森望訳) ソニー・マガジンズ

 認知心理学者のジョアンナ・ランダーは臨死体験者の対面聞き取り調査を通じ、臨死体験をテーマにオーソドックスな科学研究を実施している。しかし同じ病院内には臨死体験本でベストセラーを飛ばした迷惑きわまりないミスター・マンドレイクがいてジョアンナの患者にでたらめな「あの世」を刷り込んでいくし、ポケベルはしょっちゅう鳴り続けるしで仕事にならない。そして、新しく赴任してきた神経内科医のリチャード・ライトは、臨死体験は脳内の神経科学的な現象によるものではないかと、擬似NDE(臨死体験)状態を作り上げ、それを記録するというプロジェクトにジョアンナの助けを求めてくる。ところが被験者からマンドレイクのスパイ、宗教オタクなどを消去していくと残りはほとんどいないという不測の事態に。さまざまな要因が重なって、ついにジョアンナは自分で擬似的な死を体験することにする……――
 コミカルな要素(迷路のような病院内をマンドレイクを避けるために駆け回るとか、鳴りすぎるポケベルを切っているために会いたい人とすれ違い続けるとか……)も存分に盛り込み、しかも突然死した男の言い残した言葉と、ジョアンナが臨死体験で赴いた場所の関係――いっても誰も信じてくれないし、自分もはっきりとは特定できないけれど、でも確かにおぼえているはずのなにか、どこか、というもどかしい思いのミステリー性。テンポよくすすみ、上下二冊、飽きることなく読むことができる。
 どれほどコミカルにテンポよくすすんだとしても、テーマは「死」。そしてこの物語には、死よりも悪い生や、死を告げられることよりも悪いこと、も出てくる。誰もが等し直面するものだからこそ、目をそむけるのか向きあうのか、その在り様はさまざまだろう。病院という場におけるさまざまな死、もしくは死に近づいてゆく姿も散見でき、そのあたりの筆致は見事である。
 それにしても。訳者いわくの「第二部のラストで待ち受ける、前代未聞空前絶後の大どんでん返し!」。実はこれ、わたしが出会うのは三度めです、この手法。短編ではなくてこれくらいの長編とかシリーズでやられちゃうというのは……うーん。いいけど。この手法ってどうなの? と思ってしまったりも。既読者の方々、いかがですか?(って、ネタばれになるので掲示板では語れない話ですが)。



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