人形の幻想は、永久に続く。醒めない幻想は、人を永遠に支配する。だからこそ、徹底的に叩き壊したくなる。
                
「コッペリア」 加納朋子  講談社

 両親の離婚によって、ホステスになった母と長姉。男に貢がせて暮らしている次姉。そんな彼女たちを眺めて育った「私」、聖子は弱小劇団に所属する女優として、聖と名を変えて暮らしている。今回彼女が挑戦するのは人形の役。人形のように硬質な美しさを持つ彼女のために書かれた作品だ。
 一方で、幼い頃両親を強盗に殺され、成長してまた養父母を事故で失った了。彼は人間との付き合い方を知らず、ただいつしか人形にのみ心を奪われていく。そんな彼がある日見たのは、人形そっくりな聖だった。
 聖とうりふたつの人形を創りあげた如月まゆら。物語は、まゆらの才能を開花させた創也を交え、人形を取り囲む人々の思いが綴られていく。人形は笑い、泣き、怒った顔をしているが、そんな人形を手にした人々は表情を失い、思いを伝えることもできず、思いを理解することもできず、憎しみだけが凝ってゆく。
 物語で重要な役割を果たすのは、如月まゆらの創作する球体関節人形、まゆらドールである。顔立ちはきれいなのに、可愛いというよりは恐ろしいとさえ思える圧倒的な存在感。万人に好まれる人形ではないが、まゆらドールに魅いられてしまう者も多い、というそんな人形。加納朋子が意識したかどうかは別として、わたしは途中からはほとんど可淡ドールや倉橋由美子の「プランツドール」をイメージして読んでしまった。小道具ではなく、それなくしては語れないほどの存在感を見せる人形。
 ところで、この物語は、人形とは一歩離れた視線を持って書かれているため、最後のほうの人形に対する扱いに関しては……人形好きとしては「ええ、ウソでしょう!」という展開になる。そういう意味では、なんというか、加納朋子ってやっぱりどこか醒めているな、と感じる作品ではある。オススメですけど。
 KATANドールってどんなの? と思ったかたは、こちらへどうぞ。


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