「こんなことはあり得ない! ――そうです。そのあり得べからざることが起こったのです」
           
           「復活の日」 小松左京  ハルキ文庫

 軍事用に開発された細菌兵器、MM‐88。零度を超えるときちがいじみた増殖をし、摂氏五度に達すつと猛烈な毒性をもつというその生物化学兵器を搭載した小型機が、冬のアルプス山中に墜落。だがそれは、研究室から非合法的に持ち出されたものだった。そのため、春を迎え、爆発的な勢いで増え始めた細菌を前に、科学者たちでさえ、それがMM-88であることを類推することさえできずに、時間だけがすぎていってしまう。当初は心臓病か、風邪かと思われていただけに、致死率がほぼ100%となるに至ったときには、時間がたちすぎ、菌が広がりすぎ、もう手の施しようもなかったのである。世界中で人々がばたばたと倒れていく中、各国の南極観測隊のメンバーたちは、自分たちに課せられた使命を噛みしめていた。生き延びなければならない。そして、もう一度、この世界を復活させるのだ……――
 人類がこんなにあっさり滅んでしまうなんて、あり得ない――と叫びながら死んでいく人々。だが、あり得ないことではない。むしろ、小松左京がこれを書いた時代よりも、いまのほうが、もっとあり得る話なのではないかと不安になる。
 物語は後半、ウィルスだけではない、とんでもない災厄に見舞われる。人類の愚かさに限りはないのか。
 なお、この話、マイケル・クライトンの「アンドロメダ病原体」に似てるなあ、と思ったら、どうやらこの話を映画化するのなんのといって英訳して送っちゃったフォックスに、当時、マイケル・クライトンがいたのだとか……おいおい。「まあ、その話はどうでもいいんだけどね」とかいってていいんですか、小松左京。もっと怒っていいと思います(笑)。



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