人は語りたがる。秘密を。重荷を。
 いつでもいいというわけではない。誰でもいいというわけではない。時と相手を選ばない秘密は秘密ではないからだ。
 しかし、選ばれる時と相手に、基準はない。
         
   「小暮写眞館」 宮部みゆき 講談社

 変人の両親が気に入って購入してしまったマイホーム――本来ならば土地だけで、取り壊されるはずの建物を改築してしまったそこは、ただの家ではない。もともとは写眞館(「真」が「眞」であるところもポイント)だったので、背景スクリーンのあるスタジオ付き。家の正面にはガラスの飾りケースもある。しかも父親の趣味で、「小暮写眞館」の看板まで残してあるから、中にはまだ写眞館だと勘違いする人だっている。物語は、そんなちょっと風変わりな家に住む、花菱英一を主人公として綴られてゆく。
 そもそものきっかけは、小暮写眞館で撮られた心霊写真が紛れ込んでいたからなんとかしろ、という女子高生からの高飛車な依頼だった。ただここに住んでいるだけで、写真とはまったく関係ないのに……という言い訳など聞かず、好奇心もあってその謎を解明してしまった英一。本人にしてみればそれっきりのはずだったが、その後、なんと心霊探偵だの心霊写真探偵だのという噂が広がってしまった英一のもとには、不可思議な写真や、写真にまつわる不思議な謎が持ち込まれるようになってしまう。
 「ま、いいか」が口癖の英一、兄に似ず(?)優秀な弟のピカ、英一の友人でピカのお気に入り、テンコ。この他、誠実なんだか不誠実なんだかわからないST不動産の面々や、テンコと同じ同好会に所属しているコゲパンなど、魅力的な登場人物たちが次々に出てきて、英一をひっかきまわす。だが、どたばたと賑やかな日々のように見える花菱家にも、かつて四歳で亡くなってしまった風子の影が存在する。英一の妹で、ピカの姉。風子の面影は、物語のところどころに、ひっそりと哀しく顔を出し、心霊写真探偵(?)となった英一の胸に、風子への想いをよみがえらせる。そしておそらく、英一が、明るくて元気一杯のコゲパンではなく、孤独な影を常に身にまとっているような年上の女性に惹かれてしいまったのも、おそらくは家の中に風子という死んでしまった妹の影を抱いているからだ。
 明るくて、ちょっぴり切なくて、人間っていいな、と思わせる作品になっている。宮部みゆきの人間観察ぶりが遺憾なく発揮された小説。長さは苦にならない。オススメ。



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