"我忽ちに死て鬼と成て、此后の世に在まさむ時に、本意の如く后に陸びむ"
             
「鬼譚草紙」 夢枕獏+天野喜孝 朝日新聞社

 清和天皇の御母君であり、関白太政大臣藤原良房公の御娘である染殿のお后さまは、たいそうお美しい方で、人ならずとも、天地の間にある木石の精霊や魑魅の類までもが心を奪われるだろう――という方だった。姫自身も人の目には見えぬものが見えていたのか、物の怪をわずわうこともたびたび。しかし、三十七の歳についた物の怪は祈祷によってもさまざまな修法によっても払うことができない。そこで、葛木山に住む尊い聖人を呼んできたのだが、物の怪を払った後、この真済聖人が姫の美しさにとりつかれてしまう。仏の道も人の道すらも捨てて想いを遂げようとした聖人は、生きてその想いかなわぬならと、みずから鬼となることを決意する――
 題名のとおりの、鬼の物語。「染殿の后鬼のため撓乱せらるる物語」(本当は「女」なんだけど、出てこない…)「紀長谷雄朱雀門にて女を争い鬼と双六をする語」「篁物語」の三篇。どれも美しい女性と鬼の物語である。夢枕獏の小説もいいが、天野良孝の絵もまたすばらしい。
「なにかHな話をやりたいねえ」とふたりで話し、「もう、すごくえげつないやつを」なんていっているうちに出来た物語であるらしいのだが、文も絵もそれほどえげつなくはない。陰陽師とは別の平安の物語を楽しんでみるのもいいのではないだろうか。



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