それにしても、よくこんなに長いあいだ、だれも好きにならずに生きてきたものだ。それとも、よくぞ今になってだれかを好きになった、と驚くべきなのか。
            
 「銀のキス」 アネット・カーティス・クラウス(榊田利枝訳) 徳間書店

 十六歳のゾーイは孤独に苦しんでいた。重い病気で入院している母さん。母さんが死にむかいつつあることを口にできず、ゾーイを病室に近づけることさえせずに疲れきってしまった父さん。そして、親友のロレインの引越し。なぜ、何もかもがこのままじゃいけないの? 何もかもが変わってしまう。わたしが何をしたっていうの?
 そして、ゾーイは夜の闇の中、サイモンに出会った。月の光の中、精霊のようにも見える美しい少年。彼は、父さんもロレインも避けていた死についての話をゾーイと交わす。死をおそれるゾーイの感情について。ひとりぼっちで生きることについて。サイモンは、ゾーイが死にゆく母さんに何もしてあげられない自分の無力さに怒りを感じていることさえもわかってくれた。そして、その怒りのせいでまわりの人を遠ざけてはいけないことも教えてくれる。彼との出会いによって、少しずつ癒されていくゾーイ。けれどサイモンは長い長い時を生きてきた呪われた種族だった。
 いわゆる「吸血鬼もの」というのは何冊か読んでいるが、これは思いがけず、なんと「フィーヴァー・ドリーム」にいちばん近いものを感じる。己の吸血鬼であることの運命を呪い、自分の母を殺した残忍な吸血鬼クリストファーを追うサイモンの姿が、「フィーヴァー・ドリーム」の主人公と重なるのだ。
 サイモンの孤独を癒すためには、ゾーイも同じ吸血鬼になるべきなのか。それとも。最後にゾーイとサイモンがくだした決断。やさしさと強さは同じものなのかもしれない。  


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