そして実話であるから、本当の結末がある。作り上げた結末ほどドラマチックでも不気味でもないが、面白いことは面白い。現実には次のような結末となった。
             
「奇才ヘンリー・シュガーの物語」(「奇才ヘンリー・シュガーの物語」所収) ロアルド・ダール(柳瀬尚紀訳) 評論社

 ヘンリー・シュガー。41歳独身。生まれてから一日とて働いたことはなく、それでも裕福なのは亡き父が裕福だったから。独身なのは、あまりに自分本位だから妻と金を分け合う気になれないから。もっともっと金が欲しいから、友人相手の賭けであっても、イカサマをするのになんのためらいもない、そんな男。
 そんなヘンリーはある夏の週末、友人の家で「目を使わずして見る男」という記録と出会った。それはある医学博士が記した、目を使わずして見る能力を得たインド人の物語である。……目を使わずにして物を見ることができるのなら……ブリッジもポーカーも、賭け事という賭け事はやるたびに勝てるんじゃないか? 世界じゅうのカシノへいって、ぼろもうけができる! 
 金もうけの夢を見たヘンリーは、さっそく記録でインド人が述べていたとおりの修行をはじめる。そして、ウソのような本当の話。ヘンリー・シュガーは内的視力を得て、カシノでぼろ儲けできるようになった。そしてこれは実話であるから、本当の結末がある……
 短編集。
 表題作「奇才ヘンリー・シュガーの物語」がなんといってもオススメだが、自伝的な「思いがけない幸運 いかにして作家となったか」、自伝でも触れられている最初の短編「楽勝」が入っているなど、ダール好きには見逃せない短編集。とある才能をもった男を乗せた道中の物語「ヒッチハイカー」や、欲を出した男の哀れな結末「ミルデンホールの宝物」など、どちらかといえばやや大人向けの物語があるかと思えば、「動物と話しのできる少年」や「白鳥」のように、子どもも楽しめる話も入っていて、読んでいて得した気分にもなる。子ども向けの本じゃないダールを読みたいな、というような人にもオススメできる本である。



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