「きみたちのところでは、子どものころっていうのが人生の終りにあるんだね?」
「考えてもみたまえ」
 と、王様は言った。
「おれたちには、これから楽しみにできるものが待っているのだからな。わくわくするではないか!」
                  
「ちいさなちいさな王様」
  アクセル・ハッケ作・ミヒャエル・ゾーヴァ絵(那須田淳/木本栄共訳) 講談社


 ほんの気まぐれに、僕の家にやってくるようになった小さな王様、十二月王二世。人差し指くらいの大きさしかないくせにひどく太っていて、深紅のビロードのマントを着て、くまのかたちをしたグミが大好きな王様はと僕の会話は、不思議なやさしさと安らぎに満ちている。
 たとえば、生まれたときは大人で、歳をとるにつれてだんだん小さく、幼い子どもになってしまう王様はいう。
「小さくなればなるほど、多くことを忘れていくのだ。(略)いろんなことから解放されて、頭の中には、真っ白な自由な空間ができるから、そこを遊びや空想で埋めるのだ」
 そんなことを聞いたら、大きくなってつらいことが増えてしまう僕はうらやましくて、哀しくなってしまう。王様までもが「まったくお気の毒だね」なんていうのだから。
 王様は時にとってもわがままで、「おれはとても退屈しているのだ」といって、遊んでくれることを僕に強要したりもする。でも、そんな王様とつきあうことで、サラリーマンで想像する力を失いつつあり、しょっちゅう気を滅入らせていたような僕も、想像の楽しみやすばらしさをすこしずつ、知ってゆく。
 雨の降るさびしい夜には、王様がふらりと遊びにきてくれないかと願ってしまう……。




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