やれやれ。――金田一耕助の息子が二人も出て来たぞ。
               
「闇夜にカラスが散歩する」 赤川次郎(「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」所収) 角川書店

 いわずと知れた横溝正史作品、それも金田一耕助シリーズへの愛を込めたオマージュが収められた短編集。赤川次郎、有栖川有栖、小川勝己、北森鴻、京極夏彦、栗本薫、柴田よしき、菅浩江、服部まゆみといったそうそうたるメンバーが物語る金田一耕助。ときにそれは、すでに探偵稼業から遠ざかった金田一が、ふとしたことから推理を働かせるものであったり、金田一耕助をこよなく愛する人々が(近田一だったり、錦田一だったり、留学生のキムとデンちゃんと「ぼく(一)」の三人よれば金田一だったり……)謎解きに挑戦する物語である。愛情たっぷりに書いていることが読者にも伝わってくるため、どろどろおどろおどろしい話ではなく、むしろ微笑ましいほどにあたたかい作品が多い。
 さて、最初に挙げた「闇夜にカラスが散歩する」は、このような話である。山中を走る田舎の列車に乗っていた「私」は、4,50代にくらいのヤクザ風の男と、やはり同じく4、50代のスーツを来た紳士とに、立て続けに声をかけられる。しかも、どうやらふたりは「私」を誰かと間違えているらしく、合言葉らしきものを口にした。そして、ふたりは互いに、自分こそが金田一耕助の息子で、警察の依頼を受けて動いている探偵なのだと主張する……
 ひさしぶりに赤川次郎の作品を読みましたが、やっぱりなんだかんだいってすらすら読めるな、という感想。ユーモアもあって、安心して読めます。



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