私はやっと悟った。――私は死んでしまったのだということを。
               
「透きとおった一日」 赤川次郎「七つの危険な真実」所収 新潮文庫

 ふと目を覚ますと、そこは保健室。いつのまにやら貧血でも起こして運ばれたらしい――だが、それにしては先生にも同級生にも気づかれない。どうして? 混乱したまま自分の教室に戻り席についた「私」、下山純子はようやく気づく。自分が、死んでしまったのだということに。
 純子のことに気づかない先生や生徒たちが見せる、それまで知らなかった顔。そして自分でも信じられない「飛び降り自殺」の可能性。純子は自分の死の真相を探り始める。
 七つの物語が収められたアンソロジー。残念なのは書下ろしが赤川次郎のこの一篇だけなことと、他の作品がずいぶん古いものからも引っ張り出されていること。ああ、これも読んでる、これも知ってる、という感じで、目新しさがそれほどない。が、逆に……これまであまりミステリーって読んだことがない、とか、ちょっと手軽に短篇から手を伸ばして、いい作家を発見したい、なんて思っている人にはオススメ。ここに収められているのは、その作家の雰囲気をよく掴んだ作品ばかりだからだ。宮部みゆきの「返事はいらない」、阿刀田高「マッチ箱の人生」、連城三紀彦「過去からの声」などは、ほんとうによく雰囲気のでた作品なので、これを気に入って他の作品を読んだとして、好みを外れることはまずない。ただ問題は、乃南アサや夏樹静子、北村薫の作品は、これを読んで気に入ったから他のも、としてみると……あれ、なんだか違う。と思うかもしれないということ。まあ、個人的に付け加えるならば、北村薫にはもっとおもしろい作品が沢山あるので、今回のこの話がイマイチ、と思ったとしても別のを読んでもらいたいものですが(笑)。
 初心者向けアンソロジーとしてオススメの一冊。



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