――みんなが見てる京都は、鬼の見せる夢なんや。
            
「鬼女の都」 菅浩江 祥伝社

 人気同人誌作家藤原花奈女が自殺した。まるで強盗にでもあったように色とりどりに散らされた着物の中で、長襦袢だけを身にまとい、能に見立てた朱色の小袖をふわりとかけただけの姿で手首を切った花奈女。商業誌デビューも決まっていたはずの彼女を、誰が、何が死に追いやったのか。花奈女を追いつめていた「ミヤコ」は京の都という街のことか、それとも実在の人物か。手がかりはミヤコから送られてきた手紙、そして花奈女に贈られた「おめでとう」の文字の書かれた黒白の水引きの封筒。花奈女のファンであった優希は、彼女の死の謎を追うために動き始める。だが、花奈女のデビュー作となるはずだったものの後を引き継ぐと宣言してから、優希の周囲でもまた奇妙な出来事が続く。これはいったい……? 京都という魔の都のなせるわざか。それとも。
菅浩江の初長編ミステリーなのだという。現在ではもちろん菅浩江の名を知らない人も少ないだろうけれど、SFデビューした人が長編ミステリーを書くのはしんどかったろうな、などと要らぬ心配をしてしまったり。ともあれ、「京都」というのは裏の顔と表の顔が違うのだという。高度な応対技術が必要で、仄めかしは奥ゆかしさなのか厭味なのか、判断に苦しんでしまう。動き始めた優希たちを待ち構えていたのも、そんな京都の複雑さ。そして京都ばかりでなく、振り返ってみれば自分たちだって、たくさんのことを隠し、偽りで覆ったもののいかに多いことか。絡みつくような夏の暑さと、京都という「場」を活かした、日本のミステリー。女性同士の仲がいいんだか悪いんだか微妙な力関係のいやったらしさ、というものも良く描けていて、かなり楽しめる。どんでん返し的なおもしろさはないけれど、だらっと生ぬるいいまのような季節にオススメの一冊。



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