「やつらは皆同罪だわ。皆戦犯なのよ」
「ウクライナの市民警察官は一人残らず戦犯だって言うんですか?」
「一人残らずよ」
              
 「希望の戦争」マーシャ・フォーチャック・スクリパック(荒木文枝訳) ポプラ社

今年からコースラ・アート・スクールに通うようになったキャット(カタリナ)は、祖父の代にカナダに移民してきたウクライナ人の少女。前の学校セントポール・カトリック高校でキャットの作品が物議をかもしてしまい、今学期から転校することになったのだ。周囲の学校からは変人の集まりだと思われているコースラの生徒たち。しかもキャットに声をかけてきたのは黒づくめの身なりに白と黒の化粧をしたイアンという男の子。イアンのガールフレンドでベトナム人のリサもまた、ゴスの格好をしていて、最初のうち、キャットは思わずじろじろと眺めずにはいられない。
それでも徐々に学校に慣れ、イアンたちとも友情を深めていくキャットだが、ある日、キャットの家にカナダ連邦警察がやってきた。祖父のダニーロが戦争中ナチスに協力したウクライナ市民警察の一員であり、移民時の申請が虚偽であったために国外に追放される――というのだ。五十年前の記憶に苦しめられるダニーロ。あの当時の苦しみを誰がわかってくれるのだろう? ダニーロの無実を証明するための裁判の過程で、キャットは当時のウクライナの人々の苦しみ、数字だけではわからない歴史の真の姿を知ってゆく。それと同時に、元ナチスだと家に落書きをされたり、抗議文を送られたりと気の滅入る日々に支えとなったイアンとリサの優しさも身にしみるのだ。かつて人々は人種によって差別をしていた。いまもまだ、人々は他人を見た目だけで判断していないだろうか?
大好きな祖父にかけられた嫌疑。心ない人々から憎しみを浴びせられ、傷つくキャット。けれど同時に、家族の絆や真の友人、自分を取りまく歴史の重み、そんなことにも気づいてゆくのだ。物語はキャットの視点と、沈黙を守る祖父ダニーロの記憶や現在の想いなどを交互に織り交ぜて進んでゆく。さまざまなことを考えさせてくれる作品である。オススメ。



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