「シジン、あなたは幸せなひとだ。仲間たちのところにしろ、故郷にしろ、いつでも戻るところがある」
         
 「ガンバとカワウソの冒険」 斎藤惇夫 講談社

 ひさしぶりの我が家でくつろぐガンバ。イタチのノロイのこと、クマネズミと戦ったこと、シマリスのグリックのこと……ひとつひとつの思い出を噛みしめながら横になっていたガンバは、次の旅まではのんびりしよう、と決意している。なぜなら、そこが自分の住処、故郷であると思っているからだ。けれど、そんなガンバの思いをよそに、迎えにきたイカサマ、ガクシャ、マンプク、シジン。彼らはシジンの別れた恋人ナギサを探しに四の島へ行こう、といって渋るガンバを説得する。けれど、暖かい南の島へのちょっとした散歩のつもりで出かけたガンバとその仲間たちを待っていたのは思いもかけない冒険だった。
 ヒトの手によってとうに絶滅したと信じられていたカワウソを探して、ガンバたちは走り続ける。裏切り者かもしれない島のネズミのウキクサ、たまに現れてはガンバたちに容赦のないことばをあびせるカモメのキマグレ。だれが味方で、だれがそうじゃないのか、ほんとうにカワウソは、そしてシジンの恋人ナギサはいるのだろうか。
 「グリックの冒険」は見知らぬ故郷、憧れの地へと旅する話だった。そういう意味では「冒険者たち」は故郷を守る話だったのかもしれない。そして今回は、故郷を捨て、旅を故郷とする冒険者たちが己の故郷を語り、故郷を懐かしみ、故郷への熱い思いから……カワウソたちに故郷を探し与えようとする話だといえるだろう。
 故郷。シジンの語る故郷、それに応えて語るカワモの父親が語る故郷への想い。わたしの故郷はどこだろう……そんなことを考えてしまうひととき。



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