スリムな四十五歳よりはふくよかな三十五歳に見えることをわたしは選びたい。
        
「壁のなかで眠る男」トニー・フェンリー(川副智子訳) 新潮文庫

 隠れゲイの夫ジュリアンは地元の特権階級の末裔で、「わたし」、マーゴは彼との結婚で社交界の扉を開いてもらった。マーゴはお返しに、彼には住み心地のいい豪邸とヘテロセクシャルの妻帯者という体裁を提供。ふたりはつつがなく幸せに協定を結んで暮らしている。
 ところが、現在はコラムニストであるマーゴのかつての職場――ストリップ劇場だった古いクラブの解体作業現場から若い男の白骨死体が発見されてしまう。当時働いていたストリッパーやドアマン、集金係は、誰も彼もいまや上流階級のレディであったり、家庭内暴力から妻を守る会の運営者であったり、人気のある説教師や弁護士であったりする。壁の中にいたのは誰か、そして当時、誰が彼を殺そうとまでしていたのか?
 洒落たテンポのいい会話と、強烈な登場人物たち。話は基本的に、かつての知り合いに当時の話を聞きにまわり、警察にそれを報告し、おかえしに警察の進展状況を聞く、というくらいしかないはずなのだが、これが、読ませる。夫ジュリアンとの堅固な友情もよく、訳者あとがきにもあるのだが、ある意味、理想の夫婦である。
 むちゃくちゃ期待されて読まれてしまうのは困るのだが、軽い気持ちで濃いキャラを楽しみたい、という向きにはオススメ。



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