「この世には天意があるという。真実俺が天命ある王なら、謀反など成功すまいよ。あえて天意を試そうというなら好きにするがいい」
             
    「東の海神、西の滄海」小野不由美 講談社

 世界の果ての海、虚海と呼ばれるその海によって隔絶された二つの国。蓬莱国と常世国の双方で、貧しさゆえに捨てられたふたりの少年がいた。彼らはのちに成長して出会い、さらに再び、違った立場で再会する。ひとりは雁国の麒麟、延麒。もう一人は元州令伊、斡由の僕、更夜として。廃墟と化した国を任せる王として延麒が尚隆を選び、新王登極から二十年、曲がりなりにも国が復興しつつある折のことだった。延麒はなぜ尚隆を王に選んだのか。更夜はなぜ尚隆に背く斡由のために働くのか。物語は現在と過去を自在に行き来し、ふたりの少年の生きざまを描きだす。
 これまでの物語ではすでに富み栄え、落ち着いた国となっていた雁国の初期を描いた作品。これまで際立った個性を見せていた延王尚隆が、どのようにして国を復興させていこうとしたのか、尚隆の考える国のあり方とは――というものがみえて興味深い。とはいえ、新王が立つのは前の王が道を失ってからのことであるから国土は大概荒れ果てているものだが、雁国もその例に漏れない。そしてそれが国土だけでなく人心にも及んでいるのも当然である。その中で親に捨てられ、妖魔に育てられた更夜が痛々しい。
 十二国記にはテーマのひとつとして故国喪失者――自分の居場所はここではない、と感じる者たちが描かれているように思う。実際に、胎果、あるいは海客であるために周囲となじめなかったり、故郷にありながら周囲から爪弾きにされる、そんな存在。貧しさゆえに親から捨てられた少年ふたり、彼らに真の居場所は見つかるのだろうか?
 それにしたって延王いいですねー。よくあるパターンではあるけど、けっこう好き。どうせなら彼が平和に飽きて雁国を滅ぼすところまで書いてほしい。



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