追い詰められて誰も親切にしてくれないから、だから人を拒絶していいのか。善意を示してくれた相手を見捨てることの理由になるのか。絶対の善意でなければ、信じることができないのか。人からこれ以上ないほど優しくされるのでなければ、人に優しくすることができないのか。
                   
 「月の影 影の海」 小野不由美 講談社

 学校でも家でも自分を殺し、周囲に合わせて生きてきた高校生の陽子。しかし、その生活はある日突然学校に現れたケイキと名乗る不思議な男によって打ち破られた。突然襲いかかってきた魔物から逃れるため、海に映る月の光を抜けて陽子がやってきたのは、言葉こそ通じるもののこれまでの生活とは全く違う、異世界だったのだ。しかも陽子を無理矢理この世界に連れてきたケイキとははぐれ、手元にあるのは陽子のものだといわれたひと振りの剣のみ。生活習慣も考え方も違う人々の中で生き延びるには、陽子はあまりにも無知で弱かった。親切にされ信じた相手に裏切られ、わずかな持ち物を盗まれ、しかも悪意しか口にしない幻の蒼猿に苦しめられる日々。元の世界に帰ることができるのか。元の世界に帰ったとき、自分はそれでもかつての自分のままだろうか……?
 「十二国記」シリーズ第一弾。
 フツウの女子高生にとってはあまりに過酷な試練の連続。それは風雨や飢えといったもの以上に、誰も信じられないという絶対的な孤独である。ひとりの女子高生がその孤独の中で見つけた「自分」は、果たしてどのようなものだったのか――
 どこか中国のようで、どこか日本のよう。不思議な世界の謎はまだまだ残っている。シリーズのこれからが楽しみな作りになっている一話めである。



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