――ここの連中にとっては、すべてはゲームにすぎない。
          
  「ジョーカー・ゲーム」柳広司  角川書店

 D機関。陸軍内部にありながら、陸軍士官学校や陸軍大学ではなく一般の大学を出た学生を集め、スパイとして養成する諜報員養成機関。数々の伝説を持つ結城中佐の元に集められたのは、「自分ならこの程度のことは 出来なければならない」という恐ろしいまでの自負心を持ち、それゆえに何もかもをゲームのように平然とやってのける神経を持つ男たちばかりだった。参謀本部から出向扱いでD機関に出向いた佐久間が見たのは、人でなしの集団に他ならなかった。そんな折、あるアメリカ人技師にスパイの疑惑がかかり、D機関にその証拠探しが命令される……
 連作短編集。
 どんなことでもやってのけるという自負心。敵の捕虜になるということさえ、ゲームの一部のようにしか思わない男たち。物語ひとつひとつが戦時中の緊迫感を持ちながら、なおどこか非現実的であるのは、彼らがゲームの中に生きる男たちだからなのかもしれない。
そしてなにより、そんな彼らを操る、魔王のような結城中佐。彼にとっては、何もかもが見透かせるゲームでしかないのか。結城中佐に操られた駒たちが織りなす複雑なゲーム。
 戦争を扱った小説の泥臭さみたいなのがなく、まるで外国の小説を読んでいるかのようなのは、やはりネタがスパイという、ちょっと遠い世界の話だからなのかもしれない。
 佐久間は、養成所の男たちを人でなし、化け物、と感じるが、実は彼らの中にも感情を持つ者が存在するというような物語があるのが、少し救いとも思われる。
 2009年度このミステリーがすごい! 第2位。2008年週刊文春ミステリーベスト10第3位。理論社のミステリーYAでしか柳広司を知らなかった中高生には、思いがけない一面が見られて面白いかも。オススメ。




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