「生きものだと思って扱うのよ。人類だって、女だって、盆栽だって、みんな同じ。あるがままの姿を認めて、時間と手間をかけさえすれば、あなたの望み通りに育っていくわ」
          
「時間のかかる彫刻」(「時間のかかる彫刻」所収) シオドア・スタージョン(大村美根子訳) 創元SF文庫

 のっけからなんだが、あとがきによれば、スタージョンは生涯で五回結婚し、その作品は妻の名前で区切られることもあるという。高校時代の恋人ドロシー時代は「裏庭の神様」、二番目のメアリ・メア時代には「成熟」「シジジイじゃない」「ビアンカの手」「夢見る宝石」等の蜜月時代。三番目のマリオン時代は「人間以上」の第一部等で、一般にメアリ・メア時代とマリオン時代がスタージョンの作家としての最高時代といわれているらしい。
 しかし。この短編集の「はじめに」にスタージョン自身が書いているように、四番目の妻ウィナとの出会いによって、スタージョンは「週に一編」のペースでタイプライターを叩きつづけ、この作品たちを書き上げたのだという……
 「はじめに」だけを読むと、ウィナとの結婚がはじめてみたいじゃないか! と思わないでもないのだが、そうではない。おそらく離婚だか死別だかの失意の中をウィナに救われた、ということなのだろう……ええ、きっと。
 というわけで、この短編集も愛の物語が多く含まれている。スタージョンって基本的には人との出会いの瞬間を描いた作家なのかもしれない、とも思う。
 ただし、甘い生活の中で甘い作品ばかりかといえばそうでもなく、「きみなんだ!」や「ジョリー、食い違う」あたりは人生のある一面を描いたとんでもなく皮肉な作品に仕上がっている。「<ない>のだった――本当だ!」は、まるでアシモフが書きそうなタイプのユーモア小説。
 個人的に好きなのは「箱」。問題児たちを乗せた宇宙船が不時着し、5人の少年少女と保護観察官ひとりが生き残る。キャンプ地までは遠い道のりだ。しかし、保護観察官のミス・モーリンは彼らと行をともにするだけの体力はなく、宇宙一の宝物、人類にとって最高の贈り物が入っているという箱を彼らに預け、ひとりひとりにメッセージを残して死んでしまう。喧嘩をし、辛い思いをしながら箱を運び終えた子ども達が得た、人間にとって最高の贈り物とは。ぜひ読んでもらいたい素敵な物語。




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