この実験のリスクは非常に大きいので、ほかの人を実験台にするわけにはいかない。
                
「自分の体で実験したい:命がけの科学者列伝」レスリー・デンディ、メル・ボーリング(横山あゆみ訳) 紀伊国屋書店

 いまわたしたちは、あまりにも温度の高い日に水も飲まずに運動すれば死んでしまうことを知っているし、歯を抜くときや手術のときには麻酔、心臓病には心臓カテーテルというものがあることを知っている。食べ物が胃の中で消化されることや、シートベルトの重要性などについてもいうまでもない。
 しかしそれらがはっきりとしていなかったとき――それを自らの体で実験して確かめようとした人々がいた。なによりもまず好奇心から。健康な人体の仕組みを今すぐ知りたい、どのように病気や怪我になるのか、それを知って患者を救いたい。そのためにはその分野のことをよく知り、危険性も熟知している自分で試すのが何よりだ……と、そのような思いから、彼らは100度を越える高音室にこもり、亜麻袋や木の筒にいれた肉を飲み込んで消化具合を確かめ、自らの腕にカテーテルを通した。死に至る病だとわかっていて、病原菌のついたメスを体に突き立てた医者もいる。ときにそれは自殺か殺人かという問題にまで発展したり、単なるサーカスの曲芸と同じだと揶揄されたりしてしまう。だが、それでも彼らは実験を続けたし、そしていまでも世界のどこかで、自分の体で実験をしている科学者がいる。
 タイトルのおもしろさに魅かれて手にとったが、大正解。収められた10 の物語はどれも魅力的だし、緻密な資料収集で明らかになった科学者の心理や行動のありようは素晴らしいものばかり。巻末の年表には、ここでは取り上げられなかった日本人を含むいくつかのモルモット科学者(自分の体で実験した人々)が掲げられているが……蜂の毒針を自分の体に刺したり、蛇に噛まれてみたりと、まあよくこんなことをしたものである。
 知的好奇心を刺激される本。オススメ。

 注*良い子はマネをしてはいけません。



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