研人は、自分の境遇を呪った。父親が死んで、どこかやけっぱちになって、挙句の果てに命を狙われる羽目に陥っている。
                    
「ジェノサイド」高野和明  角川書店

 アメリカ大統領のもとに届けられたひとつの報告――

 『人類絶滅の可能性
  アフリカに新種の生物出現』


 20世紀後半から予想され、かつて『ハインズマン・レポート』によって予言されたことが現実となったのか。人類絶滅を回避するため、4人の傭兵が雇われ、アフリカ、コンゴの奥地へと向かう。傭兵のひとり、ジョナサン・“ホーグ”・イエーガーにとって、この仕事は肺胞上皮細胞硬化症で苦しむ息子の高額な医療費を稼ぐために避けられない任務だった。しかし、任務完了までに息子ジャスティンが生存している可能性も薄くなってきている現実。さまざまな思いに引き裂かれながら、イエーガーはアフリカの地を踏む。
 一方、薬学部の大学院生、古賀研人は、急死した父、誠治の残した暗号めいた言葉により、これまで想像もしていなかった状況に放り込まれる。大学教授の肩書を持ってはいても、人生の敗者のようにしか見えていなかった父。尊敬することも理解することもできなかった父だが、残された謎はあまりにも大きく、かつ避けがたいものでもあった。新薬の開発。通常ならば何年もかかるはずのものが、父が残した「GIFT」というソフトを使うことによって、格段の早さでできるのだ。そして研人は肺胞上皮細胞硬化症の特効薬作成にとりかかる。
 アフリカの奥地と日本の狭い研究室と。人生のあれこれを見知ったアメリカ人傭兵と、苦労知らずで育った日本人大学院生。まったく異なるふたりの運命が、人類絶滅という壮大なスケールの物語の中で交錯する。
 登場人物たちの背景が丁寧に描かれていることで、彼らの行動は薄っぺらいものではなく、それぞれの理由がきちんと伝わってくる。そして物語半ば、人類絶滅の真実が明らかになったとき、彼らの行動の意味が活きてくるのである。
 「本の雑誌」2011年上半期ベスト10の第1位。謎多く楽しめるエンターテイメント作品だと思う。



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