「人間が、この世で、完全な幸福を楽しむことは、けっしてないのです。ほかの人と異なった運命の下にわたしが生まれたわけではありません」
        
    「ジェーン・エア」C・ブロンテ(大久保康雄訳) 新潮文庫

 幼くして両親を亡くし、血のつながらない伯母に育てられたジェーン・エアは、性格の合わない伯母に虐待され、厳格なローウッド寄宿学校に入れられた。八年もの間、無意味に厳格で不衛生なそこで青春時代を過ごしたジェーンは、成人してのち、広告を出して、家庭教師として、自立して生きることを決意する。そしてジェーンが家庭教師として暮らすことになったソーンフィールドには、フランス人の血が混じったおしゃまな少女アデールと、家政婦のフェアファックス夫人しかいなかった。領主であるロチェスター氏と顔を会わせることなく、穏やかで楽しい日々を過ごすジェーン。唯一の不思議は、時折聞こえてくる、狂人めいた叫び声だけだった。
 そんなある日、道を歩いていたジェーンは、ようやくそこで、主人であるロチェスター氏とめぐり合う。親子ほどにも年の離れた、決して美男子とはいえない主人。気むずかしく、ぶっきらぼうな彼と語るうち、ジェーンは彼に愛され、自分もまた彼を愛していることを知る。だが、ロチェスター氏には身分にふさわしい貴婦人がおり、ジェーンは幾度も彼をあきらめようとするが――
   あまりにも有名な作品なので、ネタばれも何もないと思うが、身分の差を乗り越えて結ばれようとしたその日、ジェーンはロチェスター氏の最大にして最悪の過去を知らされ、失意のうちにソーンフィールドを離れることになる。その後のジェーンの生き方にも目が離せない(が、新潮文庫下巻は、そういうネタばれもすべて書いてある……いくら有名作品だからといって問題な気がするのはわたしだけか)。
発表当時に数々の問題を巻き起こした作品なのだというが、その問題というのが「女性から男性への告白」だったりするあたり、時代を感じる。恋愛小説だが、女性の生き方そのものも考えさせるような力強い作品。




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