嫌悪感。倦怠感。拒絶感。不満。苛々――そうしたものは徐々に形を変え、恐怖という感情に結実しつつある。いや、今や私は完全に怯えている。
         
  「厭な小説」 京極夏彦  称伝社

 口うるさい厭な上司に耐えて家に戻れば、流産以降、精神のバランスを崩した妻がさめざめと泣き、家の中には薄気味悪い姿をした子どもの足音が響く。老人は敬い、大切にしなければと思っているのに、痴呆のふりをして部屋中を汚しまわる「あの人」のことは耐えられない。同じ言葉を話しているはずなのに、常識というものがまったく通じない彼女。厭な記憶を反復する家。
 帯にいわく――
「悪寒、嫌悪、拒絶……あらゆる不愉快、詰め込んだ 日本一のどんびきエンターテイメント登場」
 ってことであるので……なんか、ほんとに厭だ。
 というか、自分とは遠い話は、ただの(といういい方もなんだが)ホラー小説として読めるのである。しかし、
「あー、いるいる、こういう人」とか、
「あるある、こういうとき」
 と思ってしまったが最後、いやあな気分に落ち込んでいくことは確か。
 それを踏まえて告白すれば、個人的にいちばん厭だったのは「厭な彼女」。ズレてる、では収まりのつかない、同じ言葉を話し、同じものを見ているとは思えない言動をとる彼女……あー、いるいる、こういう人。と思った途端に、思い返して、ほんとに厭な気分になった。
 鬱状態のときは読まないほうがいいと思う。




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