「あんたの弟がうちに帰りだしているの。骨になって、ひとつずつ」
                 
 「愛おしい骨」キャロル・オコンネル(務台夏子訳) 創元推理文庫

 カリフォルニア州の森林地帯に隣接する小さな町、コヴェントリー。そこに、陸軍を除隊したオーレン・ホッブスが帰郷してくるところから物語は始まる。陸軍で優秀な犯罪捜査官としての訓練を受けたオーレンだが、二十年前、彼には弟殺しの容疑をかけられた過去があった。二十年前の夏、十七歳の兄と十五歳の弟が森に出かけ、帰ってきたのはひとりだけだったのだ。そしていま、弟ジョシュアの骨がひとつ、またひとつと玄関先のポーチに戻っていることを知らされたオーレン。しかも骨を前にしたオーレンがその訓練された目で、その骨が少なくとも二人以上のものであることに気づいたとき、物語はジョシュアだけの殺人事件ではなくなってしまうのだ。
 かつてオーレンと関係のあった年上の女性、少女時代にオーレンに対して複雑な愛情を抱き、いまなお奇妙な愛情表現を見せる若い女性、オーレンやジョシュアと同じ学校に通っていた副保安官。小さな町の狭く息詰まるような人間関係の網の中、オーレンはかつて弟が好んで撮っていた人物写真を手掛かりに、少しずつ弟の死の真相に近づいていくが……
 キャロル・オコンネルといえば、「クリスマスに少女は還る」という素晴らしい小説(双子の妹を殺された兄が長じて刑事となり、妹の死の真相を暴く)が思い出されるが、今回のこの作品は、かつて弟殺しの嫌疑をかけられ、それがきっかけに父親ともぎくしゃくしてしまった兄が、帰郷して少しずつ真相を暴いてゆく……というところに面白さがあるのだと思う。少年時代にできなかったことでも、大人になったらできる。しかし一方で、少年時代に頭があがらなかった相手には、大人になってもなお従わざるをえなかったりもする。狭い町だからこそのやりにくさとやりやすさ。粋で小柄な家政婦ハンナの存在は欠かせない。少年たちの不作法をぴしゃりとやっつけ、酒とビリヤードが強く、大人の男からも一目置かれる女性。彼女の存在が、物語にぴりりとしたエッセンスを加えている。
 2011年版「このミステリーがすごい!」海外編第1位。「週刊文春」海外部門第4位。納得。



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