家族とわたしの間には、おかしな溝ができていた。死を宣告された者と、生きることを宣告された者とでは、世界の見え方が違うらしい。
              
 「平面いぬ。」(「石の目」所収) 乙一 集英社

 「わたし」は、親友の山田さんに誘われて、ふとしたことから左腕に犬の刺青を入れてもらうことになる。白い花をくわえた青い犬、ポッキー。それは実はわたしが望んでいた犬とは違う図柄だったのだけれど、数日経つうちにはすっかりポッキーに慣れ、可愛がるようになる。しかもポッキーは腕どころかわたしの身体の中で動き回る犬だったのだ。わたしがポッキーと慣れ親しむ一方、父、母、弟が相次いで癌の宣告をされ、半年後にはわたしはたった一人になることを宣告される……――
 短編集。不思議なんだけど、せつない感じの話。結局、乙一の話は不気味でせつない、というものなんだな、というのがよくわかる。「BLUE」は残り物の布で作られた不細工な人形と感情をあらわにしない男の子との交流がせつないし、「はじめ」にいたっては、空想によって生み出された女の子との長年にわたる交友を描いたものだ。空想の少女が意志をもち生まれでて、恋をする。けれど、彼女は自分が空想の産物だということを知っているし、決して越えられない壁があることも知っている。そのような女の子のことを、女の子の側からではなく、彼女とかかわる少年たちの側から描いたところがうまい。
 あまり頭を使わずに読めるので、気がむいたときに読むのがぴったりの本。



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