2年後ここは大きな学校になり
 遺跡は伝説のように跡形もなくなる
             
      「遺跡の人」わたべ淳 双葉社

 連載雑誌の休刊、出版社の大量リストラ。不況の波は漫画界にまで押し寄せ、仕事を失った漫画家「わたべ」はM大グランド跡の遺跡発掘現場のバイトを始めた。早く漫画の現場に戻らねば、という思いがある一方で、炎天下の穴掘りによる疲労感や達成感の日々にのみこまれていってしまいそうにもなる。いつしか自分だけの道具を持ち込んだり、細かい隅々にまでこだわるようになってしまった遺跡発掘。自分はいったいどうしてここにいるんだろう。ここから抜け出すことができるんだろうか。妻からはメールで別居を切り出されるダメ人間の自分。そうやって周りを見回してみれば、イタメシ屋のマスター、画家、俳優、そして漫画家と、発掘現場には年齢も職種もさまざまな人たちが、自分たちの仕事だけでは食べていくことができずに寄り集まっていた。
 明治大学付属明治高等学校中学校建設以前の遺跡発掘現場を描いたこの作品は、最後、漫画家として再出発したわたべが、建設途中の明高中の校舎を眺める場面で終わる。使用している生徒たちだけでなく、これまでいろんな建物で何気なく暮らしていた身からすれば、自分たちの校舎や社屋がどのような人々の思い、働きの上に建っているのか――普段知ることのない作業を知る上でも興味深い作品だと思う。
 それにしても、わたべは途中、M大(明治)の現場からT大(東大)の現場へと駆り出されるのだが……やっぱり発掘現場でも東大のほうが×××なのかあ…と、M大出身者にはそのあたりでも感慨深い作品(笑。発掘されるモノの違いだけといってしまえばそうなのかもしれないが)。




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