「え〜と……あ、そうそう。つまりウチのバッテリーは、お好み焼きに入った伊勢海老と松阪牛なんだよ」
「は?」

                  「イレギュラー」三羽省吾  角川文庫


 村が水害にあい、命こそ助かったものの、ほとんどすべてを失った村民たちは避難所生活を余儀なくされていた。しかし、甲子園出場経験のある名門野球部からグラウンドの使用許可が下りて状況は一変する。ストイックなまでに練習に打ち込む名門K高とは違い、好き勝手にのびのびと野球を楽しむニナ高の面々。とはいえ、自分の球に絶大な自信を持つピッチャーのコーキは、K高に対しても負けん気を持っていたのだが、合同練習初日に特大ホームランを打たれてから、自分の野球について考えるようになる。強くなるためには、どうしたらいいのか……――。水害の最中に村を救おうと駆け回った野球部の頑張りに、大人たちの応援も熱が入る。そして、いつしか互いに壁を持っていたK高とニナ高の野球部員たちは、交流を通じて互いのいいところを学び始める。
 アタマはいまひとつだが、野球には天才的センスを持つふたりのピッチャーがよい。ダメダメ野球部にあって、監督から「お好み焼きに入った伊勢海老」といわれるコーキと、名門野球部にありながら、努力を欠かさない狭間。球速だけは負けていないコーキが、狭間に影響されて少しずつ変化していくのと同時に、狭間もまた、コーキから何かを得てゆく。
 といっても。この小説はド根性のシリアス小説ではなく、ところどころハメを外しすぎなのではと思われるほどにユーモアたっぷりの小説なので、スピード感もあって読みやすい。甲子園と、自然災害。このふたつがどのように絡んでいくのか……夏の予選、さらには甲子園まで、見どころたくさん。楽しいスポーツ小説。オススメ。



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