「もし神や信仰というものが他の異教と同じ迷信に過ぎなかったとしても、科学もまたそれらと同じく迷信でないとは、いったい誰に言い切れるでしょう」
          
「アイオーン」高野史緒  早川書房
 

 結果は業を為す者の功徳に依る。物事はすべて、その業を行った者の功徳によって結果に違いを生じる。悪意ある物質界の誘惑を退けた者だけが、功徳を積み、魂となり天上に回帰できる。しかし医師ファビアンは、功徳で名高い騎士が臨終の儀式もなく死んでいき、ごろつきの兵士が重症から回復するさまを見て何か恐ろしい深淵を感じていた。物質の力を悪とする世にあって、科学は異端だ。そして放浪の科学者アルフォンスとの出会いが、ファビアンに信仰への疑問を抱かせる。
 人工衛星をも打ち上げるほどの高度な科学文明を持ちながら崩壊したローマ帝国、その没落から数百年後の南仏トゥールーズを皮切りに、ファビアンとアルフォンスの物語が始まる。
 連作短編集。あちこちからの着想が混在していて、一瞬自分がどういう話を読んでいたのか困惑してしまうこともある(「太古の王、過去の王にして未来の王」は「アーサー王伝説」をあまりにも忠実になぞっている)。その意味では、好みがわかれる話だろう。元ネタがある物語の場合には、それが上手なウソだと感じるか下手なウソだと感じるかで、まったく違う印象を抱いてしまうからである。
 とはいえ、わたしは単純におもしろかった。ということで、ここにオススメしちゃうのである。アルフォンスが東方で得た別名なんて「うわー、きゃー、マジ、そういうとこまでつなげちゃう!?」と作者の幅広さに手を叩いてしまったくらい。作者はあとがきで、元ネタの見本市にならないようにした……と書いているが、その微妙な匙加減がうまい。世界史が好きだった人は、違った角度からも楽しめるだろうし、読んでみて損はないと思う。



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