「ぼくはただ、何も変えたくなかっただけなんだ」
           
 「イノセント」 ハーラン・コーベン(山本やよい訳) ランダムハウス講談社

 大学生のときに誤って人を殺してしまったマット・ハンターは、出所後、彼をあたたかく迎え入れてくれた兄や義姉に支えられ、法律事務所のパラリーガルとして熱心に働いていた。彼の過去のすべてを知りながら、彼を愛してくれる妻のオリヴィア。待望の子どもが生まれようとしており、すてきな住宅地に住むことも決まりかけている。だが、そんなマットのもとに、妻の携帯電話から、妻自身の浮気現場の画像が送られてきた。浮気相手を名乗る見知らぬ男。連絡のつかない出張中の妻。彼女を信じてもいいのか、それとも?
 そのころ、ある修道院で一人の修道女が死亡した。当初は自然死かとも思われていたが、修道女でありながら豊胸手術の痕があることを不審に思った修道院長から依頼され、警察が捜査を始める。修道女の部屋に残された前科者の指紋。捜査を妨害して来るFBI。思いがけず大掛かりになったその事件の糸の端に、マット・ハンターの名が浮かんでくる……。
 ふとしたことで人生を狂わせてしまった平凡な青年が、いままた、思いがけない波に飲み込まれてゆく。いまの生活を守りたいだけ、ただ普通に、平凡に生きていきたいだけなのに。
 複数の事件がひとつにまとまっていき、何ひとつとして無駄がない伏線の妙も見事。上下二巻はあっという間である。



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