「パーッと贅沢とかしたくならないんですか?」
 私はユニクロのスリムジーンズに、無印良品のボーダーシャツという格好だった。
「してるつもりなんだけど、ホントに欲しいもの買って気に入った場所に住むと、なぜかぜんぶ安物なんだよね。塩谷さんには人間が安い証拠だってバカにされるけど」
               
 「インディゴの夜」 加藤実秋 東京創元社

「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブがあればいいのに」
 そんな話から、知り合いの編集者塩谷とホストクラブの共同オーナーとなった、フリーライターの高原晶。当初はホスト3名ではじめた<club indigo>は、わずか2年でホスト30名を抱える大バコにばけた。ところがそんな折も折、<club indigo>の常連客が殺され、店のナンバーワンホストに疑いがかかる。もし真犯人が彼でないのなら、いったい……? 個性的な男の子たちと、やさぐれた中年男の塩谷とともに、三十女の高原晶が走る。
 連作短編集。ユーモラスでちょっぴり切ない部分もあるミステリ。三十女がホストに囲まれていれば楽しかろう……というわけでもなく、あまりに非常識な男の子たちの言動に腰を抜かしそうになったり、他店の王道ホストのあまりにあまりな王道ぶりに闘争心を燃やしたりと、「素」のままの主人公がとてもよい。虚飾を売り物にしているホストクラブが舞台であるからこそ、オーナーでありながら書くことが好き、と売れない本のライターを続け、安物を身にまとい、おかまのなぎさママに女としての生き方を説教をされたりする姿が光るのである。
 個人的には他店のホストですが、空也の王道ぶりが好きです(笑)。続編「チョコレートビースト」でも魅力全開ですが、すごすぎだよ、コイツ……。
 気楽に読めるわりにはミステリとしてもしっかりしていて、楽しめること間違いなし。オススメです。



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