「陸上部の顧問になった」
「で?」
「試合についていく。他校の砲丸を持ってくる」
      
「砲丸の人」森青花(「紅と蒼の恐怖」所収) 祥伝社

 書き下ろし「ホラー・アンソロジー集」。そういう方針を立てて書いてもらったものなのか、思い込みの激しい相手に勝手に付け狙われてしまう恐怖、もしくは思い込みによって殺人を犯すほどの狂った心の中、というものを描いた作品がかなりある。その中でも、この作品はかなり異色である。
 あるうららかな春の日、夫が砲丸を持って帰ってくる。最初は一つ。妻にはさわることを禁じ、熱心に磨く。それからしばらくして、宅急便で新品の砲丸が四つ届く。次々に増える砲丸。途中、投げることに興味を示した一時期もあったが、最終的にはやはりコレクションに落ち着き、しかも「オーラ」が立っているものは使われているものにかぎる、とひたすら盗みまくり、そして……――
 つまり、砲丸にとりつかれちゃった人の物語である。ただし、ホラーではない。だから、もしこれが「ホラー・アンソロジー」じゃなくって、「SFバカ本」に収録されていたら、もっと読む人がいるかも、とも思う。いや、世の中には怖いのが苦手な人と、SFを読まない人は同じくらいいるのかな??
 とにかく、怖いのが苦手な人は、ぜひこのアンソロジー中、この作品だけでも読んでもらいたい。川上弘美が好きな人は好きそう、といったら、なんとなく傾向がわかってもらえるだろうか。ほんっと、おもしろかった。


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