「それに、とにかく」母さんがいった。「生も死も、こういうことなの」
「こういうことって?」メアリーがきいた。
「キッチン。このキッチン、よ」
              
  「星を数えて」デイヴィッド・アーモンド(金原瑞人訳) 河出書房新社

 兄さんのコリンは、きょうだいの中では年が上のせいか、もう幼い妹たちと常に一緒にいるということはない。「ぼく」はコリンにも近く、けれどまだ妹たちとも近くにいて、亡くなった妹バーバラの思い出や、亡くなった父さんの思い出を静かに思いおこす。
 連作短編集。物語は時系列に並んでいるわけではなく、父さんのお墓参りをする場面から始まるのに、父さんが病気になって死ぬ話や、父さんがまだ生きていて、ぼくと一緒にいろんな話をしたり、どこかに出かけたりする、そんな物語も収められている。記憶は時間を飛び越え、ときには本当にあったできごとと、作られたできごととが交じり合ってしまうのだ……ということが伝わってくる構成になっているのだと思う。
 とりたてて派手なできごとがあるわけではない。それでも、日々を大切に生きている少年の夢や憧れや哀しみや愛、そういったものが静かに伝わってくる作品である。亡くなった人々と語りあう。いまは老いた人々の昔を思う。ぎこちなくも優しい想像力が、そこにある。
 幼い日々のことを書くのなら、こういう書き方もいいと思う。断片的で、だからこそ宝石のように大切な日々だということが伝わってくる。素敵な物語である。



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