「きみは錯乱しているのだ。きみが自覚しているかいないかは別として」
      「激闘ホープ・ネーション」デイヴィッド・ファインタック(野田昌宏訳) 早河書房


 宇宙軍軍艦<ハイバーニア>の艦長として惑星ホープ・ネーションに到着したニック・シーフォートは、かつて<ポーシャ>で別れた旧友、アレクセイ、ヴァクスのふたりと再会するが、極限状況でニックについていくことを許されなかったと恨むヴァクスからは無視され、絶交宣言をされてしまう。傷つくシーフォートを慰めたのは、つねと変わらぬアレクセイの友情だった。しかし、惑星地表勤務を命じられたシーフォートは農場主たちと地球政府とのいざこざに巻き込まれ、副官アレクセイは重傷を負って記憶を喪失。性急な独立を目指す革命派と地球政府との板挟みに苦しみ、記憶を失ってしまったアレクセイに対し、どう接してよいのかわからず苦しむシーフォート。一方、ホープ・ネーション惑星上には次々に魚のかたちをした敵が現れ、精鋭ぞろいだったはずの宇宙艦が次々に撃破されるという事態に陥っていた。そこでついにド・マーネイ提督は全艦隊の引き上げを決意するが、そのころ、シーフォートは反乱をおこした農場主によって捕えられ、地表に残らざるを得ない状況に追い込まれていた。宇宙軍に、政府に見捨てられたと叫ぶ人々の前で、シーフォートは宇宙軍および国連政府の代表として彼らを守ることを誓うが……
 政治には絡まない、といいつつ、どっぷりつかってしまう端緒がこの巻。宇宙艦に乗っているときに、艦長=国連政府代表=国連そのもの、とかいっている分には、狭い艦内のことだから許されると思うのだが、惑星ホープ・ネーション上ただ一人の士官だからといって、たかが宙尉が国連政府の全権保有者として、植民地を共和国として独立させちゃっていいんだろうか……やることが段々でかくなってきてるぞ、ニッキー(笑)。まあ、もちろん法規上は問題ないのかもしれないが。(でもこのあたりから、周囲の人間もぼちぼち、ニッキーが錯乱していることに気付きつつある……んだろうな、やっぱり。基本、幼児期の虐待記憶のせいで歪んでるもの、この人)
 今回も不幸の連鎖はとまらないわけで、アレクセイが記憶喪失になるだけでなく、非常に重要なある人物が亡くなってしまう。各巻一人以上ずつ殺さないと気が済まないのか、作者。しかも、実は前巻からそうなのだが、法規にがちがちに縛られ、誓いを守り続けるシーフォート(自分の命の恩人を、艦長に触ったという理由で降格するのはこいつだけだ、きっと)が、ぎりぎりのところで誓いを破る選択をする。もちろん、周囲にしてみれば人類が救われたんだから問題はゼロ。ただ、彼だけは、誓いを破ったのにどうして誰も罰してくれないんだー、という自己嫌悪のドツボにはまるという不幸に陥る。実は前作から始まったのはこのパターンで、これからも続く。特に今回は、罪を引き受けたと思っていたのに、逆に英雄視されてしまう(友人を不名誉から救おうとして、逆に栄誉を奪った形になってしまう)という仕儀に陥るあたり……作者がシーフォートを痛めつける手腕も上がっている。



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