間もなくそれも終わる。それぞれの場所に納まり、束縛の内に生きねばならない。家柄、格式、身分、血統、出自。多くのものに縛られて、身動きできなくなる。
              
  「火群のごとく」 あさのあつこ  文藝春秋

 小国、小舞藩の同じ剣術道場で学ぶ三人の少年たち、上村源吾、山坂和次郎、新里林弥。元服前だからこそ、家格の違いを超えて競いあい、友情を抱く三人だが、別れの日はもうすぐ目の前に迫っていた。そんなある日、道場破りのようにして現れた樫井透馬の剣の鋭さ、強さに、林弥は否応もなく競争心を抱いてしまう。しかも透馬は、いまは亡き林弥の兄、結之丞が江戸詰だったころに剣を教えた弟子でもあった。天賦の才とはこういうものかと圧倒されながらも、透馬に教えを乞う林弥。しかも、老中の息子でありながら自由奔放にふるまう透馬が江戸から小舞藩に戻ってきたのは、兄の死を探るためだという。音に聞こえた剣士であった結之丞が、闇討ち、しかも背後から斬られるなどということがあるはずもない。きっとそれには何か理由があるのだと。透馬の熱意に引きずられ、林弥は兄の死の真相を探りはじめる。
 少年たちのきらきらした日々が丹念に描かれた作品。剣を競い合う日々、屈託のない友情、初恋。背後にはこれから足を踏み込まねばならないおとなの世界、兄の死の裏に隠された汚い真相がある。そこには、彼らが普段は気にしていない、互いの家、身分というものも絡んでいる。それが透けて見えるだけに、少年から大人になる、ほんの一瞬のはかない日々が、どこか切なく迫ってくる。
 「バッテリー」や「No.6」とはまた違った雰囲気が楽しめる作品。オススメ。



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