それもこれも、あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいだ!
                 
「穴」 ルイス・サッカー(幸田敦子訳) 講談社

 スタンリー・イェルナッツ(Stanley Yelnats)。前からつづっても後ろからつづっても同じという名前をもつ、めちゃくちゃツイていない少年。ふとっちょなために学校ではしょっちゅういじめられ、友人もおらず、先生にまで残酷な仕打ちをされる。しかもまずいときにまずい場所にいたために、やってもいない罪でグリーン・レイク・キャンプに送られてきてしまった。
 グリーン・レイク・キャンプに湖はない。ひからびた不毛な大地があるだけだ。そして、キャンプに押し込められた少年たちはそこで毎日、穴を掘る。直径1・5メートル、深さ1・5メートルの穴を、毎日。ひたすら。人格形成のためだといわれて。
 風変わりなあだ名をもつ少年たち(X線、イカ、脇の下、ジグザク、ゼロなどなど)の中に放り込まれたスタンリーは、けれどそこで「原始人」というあだ名をもらって溶け込んでいく。毎日毎日、つらい穴掘りを続け、なにひとつ進歩がない中であっても、それはスタンリーにとってははじめての友情だ。
 けれど……この穴掘りは、ほんとうに不毛な作業なのか? 偶然見つけた金色のキャップから、スタンリーの大逆転が始まる。
 物語はスタンリーの穴掘りだけではなく、ひいひいじいさんがかけられてしまった呪いの話、グリーン・レイクがまだ湖だったころの哀しい恋物語などなどが織り込まれ、最後、大団円まで一息にすすんでいく。入念に練られた構成、伏線はみごと。はじめこそ、なんだか汚らしいところでただひたすら穴を掘る話なんてつまんない、と思ってしまうのだけれど、最後まで読むとなぜかもう一度ひらきたくなり、二度繰り返して読むと「ああ、こんな最初に!」と伏線の見事さに驚いてしまうこと請け合い。不思議な魅力がある本だ。


オススメ本リストへ