「いつだって見て見ぬふり。世間に何を言われようが、会社の中でよくやった、お前は偉いって言われるほうが大切なんだ。何が怖い? 生活費か? 女房か? 会社の評判か? 仕事がなくたって金がなくたって、死にはしない。新宿中央公園に行けば生きていけるぞ!」
             
   「神様からひと言」 荻原浩  光文社文庫

 大手の広告代理店を辞め、再就職した佐倉凉平。だが、会社は下々の思いや努力など全く無視しして進んでいく。自分では精一杯のことをやったはずなのに、凉平もまたそういう会社の流れの中に飲み込まれ、入社早々、上層部が居並ぶ販売会議でトラブルを起こしてお客様相談室に異動になってしまった。リストラ要員収容所とも呼ばれるそこには、会社が適当に作った製品に対するクレームが毎日毎日かかってくる。ストレスは溜まるし、やってられないとは思うのだが、プライベートでは恋人に逃げられ、家賃やギターのローンを払うためにはあと二か月、いやもう少し、我慢して勤め続けるしかない。キワモノの同僚に囲まれ、日々クレームに対応しているうち、凉平の中に何かが目覚めてくる。そしてそのクレーム対処能力が副社長の耳に届いたとき……
 どの仕事もそういうものなのだとはいえ、実際、お客様相談室のストレスは多大なものだと思われる。しかも誇りを持って作った製品、自信のある製品ならばともかく、そもそも凉平の勤める玉川食品の製品はクレームがないほうがおかしいほどの出来なのだ。腰掛け気分で会社なんてどうでもいいと思っていた凉平が、そういうことにも気づいていくところが見どころ。
 サラリーマン(ここはやっぱり「ビジネスマン」ではなく)の成長ものではあるけれど。暗くはない。笑いどころもあるし、読後はさっぱりすがすがしい。仕事にストレスをためているときに読むとなんだか救われるような気がします。働いている人たちにオススメの一冊。
……といっていたら、「最後が清々しいのは想像できるんです。でも、そこに辿りつくまでが身につまされてつらくて読めない」といった人がいました。……Aちゃん、がんばれ。働いている人たちにエール!



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