私は再び、私の空を飛んでいた。回復した羽を伸びやかに羽ばたかせていた。
     
        「立花隆秘書日記」 佐々木千賀子  ポプラ社

 気力は充分にある。体力だってまだまだ大丈夫。しかしそれでも、失業した身にとって「年齢制限」の壁は高い。まして女性であればなおさら。失業して初めて自分が社会的に弱者であることを知り、翼をもがれた鳥のように感じていた筆者が、「年齢不問、主婦可」という条件で募集されていた立花隆の秘書に応募する。応募総数五百人を超える中から選ばれたという、その試験問題がすごい。

(第一問)歴代の大蔵大臣の名前をできるだけあげよ(姓だけでもよい)
(第二問)科学者の名前をできるだけあげよ(和洋、時代、ジャンルを問わない)
(第三問)次の人々の職業、肩書きないし仕事のカテゴリーを述べよ
  鎌田慧 米沢富美子 スパイM 川島雄三 石川六郎 平岩外四……

 このような問題をクリアして選ばれた筆者もすごいが、実際には筆者よりも試験結果の良い人がいた、とか、学歴が高すぎて就職できない人がいたなどというところに、筆者とともに女性の就職の困難さを思う。
 さて、こうして「知の巨人」たる立花隆の秘書となった筆者を待ち受ける数々の事件。折しも田中角栄が死去し、オウム事件が勃発し……五年半の日々はあっというまである。けれど。
 イヴェントは終わった。さあ、次のイヴェントを始めよう。
 この言葉に至るまでの道のりを読むと、遠くから憧れの存在として(実際筆者は勤務当初、立花隆本人から「自分をあまり尊敬しすぎないでほしい」「あなたは尊敬しすぎる」といわれている)眺めていた相手の生身を知り、その上で去る者の哀しさのようなものが感じられてしまう。そう感じさせる何かが、描かれた日々の中にある。
 立花隆ファンもそうでない人も、一読の価値あり。



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