ウィルキンソンさん一家は、いきなり幽霊になってしまった。第二次世界大戦の最中、家に爆弾が落ちたのだ。
        
   「幽霊派遣会社」 エヴァ・イボットソン(三辺律子訳) 偕成社

 <やすらぎの家>と名づけた心地よい家に暮らしていたウィルキンソンさん一家。だんなさんのウィルキンソンさんは歯医者、ウィルキンソン夫人はそうじ好きの奥さん、息子のエリックは十三歳で、ボーイスカウトに入っていて、ちょうどシンシア・ハーボルトという女の子に相手にされずに悩んでいる年頃。ウィルキンソン夫人のおかあさんと、妹のトリクシーも同居していて、みんなは仲良く暮らしていたのだ……が、幽霊になってしまった。たぶんそのとき、劇の準備のために、英国国旗だけを身にまとって二階にいたはずのトリクシーはいなくなってしまったけれど。一家はトリクシーに出ていらっしゃいと呼びかけながら、そのまま<やすらぎの家>で何年かを過ごした。寒さも暑さも感じない幽霊になったおかげで、それなりに楽しく暮らしていたウィルキンソン一家だが、時代は流れ、<やすらぎの家>にも幽霊が見える人が越してきてしまったり、逆にまったく見えずに無礼な動きをする人が越してきてしまったりして、一家は仕方なく、ロンドンに居を移す。だが、そこにはやっぱり住む場所を失った幽霊たちが居場所を求めてさまよっていた。幽霊たちにやすらぎはないのか? ……と、なんと、そんな彼らを救う会社が現れた。その名も<幽霊派遣会社>。泥棒よけや観光や、その他もろもろの理由で幽霊を引き受けてもいいという人間と、住む場所を探す幽霊とを結び付けてくれる会社である。そしてウィルキンソンさんたちは、郊外にあるヘルトン館にむかうことになったが……
 しょっぱなの「いきなり幽霊になってしまった」に思わず笑ってしまったが、物語は全編、この調子で真剣なことさえも楽しめるように書かれている。死んでも幽霊にならない人もいるし、幽霊が見える人も見えない人もいる。怖い幽霊もいればやさしい幽霊もいるし、意地悪な人間もいれば、親切な人間もいる。物語は、個性的な人間と幽霊たちをユーモアたっぷりに描いていて、幽霊と人間との立場(?)を超えた友情が楽しめることうけあい。



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