「それに、それに」
 俺は眉根を揉んだ。これは駄目だ。もう始まっている。問題に巻き込む相手に千反田を選んだ入須の選択は正しかった。
「脚本家、本郷真由さんはなぜ、信頼と体調を損ねてまで途中でやめなければいけなかったのか。……わたし、気になります」
           
  「愚者のエンドロール」米澤穂信  角川文庫

 進学校の割には文化祭に力の入っている神山高校。高校2年F組ではクラス製作で「ミステリー(仮)」という自主映画を作成した……というのだが、千反田えるに誘われて試写会を観せさせられた古典部が知ったのは、その映画が未完成であり、脚本家の本郷真由が神経と体調を崩して脚本を途中放棄した、という事実だった。廃屋の鍵のかかった部屋で腕を切断されて殺されていた少年。いったい殺したのは誰なのか……? 謎解きに必要な伏線はすべてこれまで撮影された映画の中にあるのだから、その謎を解いてくれ、と「女帝」の異名をもつ上級生、入須に依頼された古典部。といっても、実際に入須たちが期待しているのは奉太郎の探偵としての能力だった。2年F組でそれぞれに意見を持つ人々の謎解きを聞き、それらが成り立たないことを暴いていく古典部。だが、奉太郎とて定められた期日までに謎解きができるかなんてわからない。そもそもこんな面倒なことには関わりたくなかったのだが……
 「氷菓」続編。省エネ探偵折木奉太郎が相変わらずの「わたし、気になります」に背中を押されて謎解きをする。だが、今回の奉太郎が少し違うのは、彼が自分の探偵としての資質について考え始めることだ。無意識の探偵から意識的な探偵へ、とでもいおうか。だが、その結果が是か非かはまた違う問題である。
 相変わらずの個性的な古典部の面々がよい。気楽に読めます。



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